米国関税措置とASEANの「相互関税」に揺れる日系企業 ～JETRO調査で見えた実情～
2025年7月9日、日本貿易振興機構（JETRO）が興味深いレポートを公開しました。「米国関税措置のASEANへの影響（2）日系企業の相互関税への反応」と題されたこの調査は、アメリカによる一方的な関税措置が、ASEAN地域の日系企業にどのような影響を与え、そしてそれに対して企業がどのように対応しているのかを明らかにするものです。特に、ASEAN諸国間での「相互関税」という、新たな課題に直面する日系企業の姿が浮き彫りになっています。
米国関税措置の余波、ASEANにも波及
近年、アメリカは自国産業保護などを目的に、一部の国からの輸入品に対して関税を引き上げる措置を講じてきました。この動きは、グローバルなサプライチェーンの様相を一変させる可能性を秘めており、多くの国がその影響を注視しています。
今回のJETROのレポートは、このアメリカの関税措置が、アメリカ直接ではなくとも、ASEAN地域に進出している日系企業に間接的な影響を与えていることを指摘しています。具体的には、アメリカが特定の国に課した高い関税を避けるために、企業が生産拠点をASEAN諸国に移したり、ASEAN諸国からの輸出ルートを活用したりする動きが出てきているようです。
ASEAN内での「相互関税」とは？
しかし、話はそう単純ではありません。アメリカの関税を回避しようとASEANルートを活用する一方で、ASEAN諸国間でも、各国の経済状況や政策によって、互いに課している関税、いわゆる「相互関税」が存在します。
つまり、企業がASEANのある国で部品を調達し、別のASEANの国で最終製品を組み立て、それを第三国（例えばアメリカなど）に輸出する場合、その過程でASEAN諸国間の相互関税が障壁となる可能性があるのです。これは、以前はそれほど問題にならなかったかもしれませんが、アメリカの関税措置の影響でASEANルートの重要性が増した現在、無視できない課題となっています。
日系企業の具体的な反応とは？
この複雑な状況に対し、JETROの調査は、日系企業が以下のような様々な反応を示していることを明らかにしています。
- 生産拠点の再配置の検討: アメリカの関税措置やASEAN諸国間の相互関税の影響を考慮し、より有利な生産体制を求めて、拠点を移転したり、新たに設立したりすることを検討している企業があります。
- 調達先の見直し: 特定の国からの部品調達に高い関税がかかる場合、別のASEAN諸国からの調達に切り替えるなど、サプライヤーの見直しを行っています。
- 輸出先の多角化: アメリカ市場への依存度を下げるために、他の地域への輸出拡大を目指す動きも見られます。
- 情報収集と分析の強化: 関税に関する情報を常に収集し、自社のビジネスへの影響を綿密に分析することで、リスクを最小限に抑えようとしています。
- コスト削減努力: 関税負担を吸収するため、社内での徹底的なコスト削減を進める企業もあります。
今後のASEAN地域における日系企業の戦略の鍵
今回のJETROの調査は、アメリカの関税措置が単にアメリカと特定の国との関係に留まらず、グローバルなサプライチェーン全体、特にASEAN地域の日系企業に多岐にわたる影響を与えていることを示唆しています。
ASEAN地域は、依然として多くの日系企業にとって重要な生産・販売拠点であり、今後もその重要性は増していくと考えられます。しかし、米国の関税措置とASEAN諸国間の相互関税という二重の課題に直面する中で、日系企業はより柔軟で戦略的な対応が求められています。
今後の日系企業のASEAN地域での成功は、こうした複雑な関税情勢をいかに読み解き、サプライチェーンを最適化していくかにかかっていると言えるでしょう。JETROの今後の調査や分析にも注目が集まります。
米国関税措置のASEANへの影響（2）日系企業の相互関税への反応
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